【お話・1】「友よ」 (ネタバレ注意)
「お嬢様。こちらの鉱材はレッドに渡しておけばよろしいので?」
うららかな昼下がり。なんとはなしに始めた「倉庫」整理の最中、エースが語り掛けてくる。
こくりと頷いてそれに返すと、彼は瞳を細めて笑みを浮かべ、同じように頷いてくれた。
常に冷静で、穏やかなエース。まるで「王子様」のような振る舞いに、心の中でこっそりとそんなあだ名をつけてもいた。
「レッド。これもお前の倉庫に入れておけ」
しかし、なんだ。自分以外に対する接し方にはいささか問題があるようにも思える。
「はあ!? お前それ、俺様に向かって言ってんのかっ!」
案の定だ。
エースのぞんざいな扱いに、まるで「シャーッ!」という威嚇声が聴こえでもするかのような勢いの彼は、レッド。ミコッテ族の彼は、怒ると瞳が吊り上がり、しっぽもぶわっとふくら……んでいるように見える、気がする。
「お前以外誰がいる」
「お前にお前って言われたくねぇなあっ!」
「お前にお前と言わずして、誰にお前と言うんだ」
「なんだとーーっ!」
また始まった。
エースとレッドはとにかく仲が悪い。こうやって何かと衝突しているのだ。
もっとも、もはや見慣れた光景であるから、無視して片づけに再度向き合うことにする。
いや、しようとした。
「まあまあ、2人とも。そんなにいがみあわなくてもいいでしょ。ね。みんな主の元に集いしリテイナーなんだからさ」
やはりそう来るか。
いがみあっている2人に声をかけたのは、リテイナーとして初めて雇った彼、ケイだ。私と同じヒューラン族の彼は、常に穏やかだ。そして、気遣いさんだ。
一応、一番最初に雇われたからという理由だけでリーダーになっている。が、案外その素質はあるようで。
「うるせぇなっ! 人の喧嘩に首突っ込んでくんなっ」
怒るレッドに、ケイがにっこり微笑んだ。
「うんうん。そうだね、そうだね。でもね。こうやって喧嘩してる間に、いくつか片づけられるんじゃないかな。そうしたら、きっと主も早く出かけられると思うんだけど……」
確かにその通り。やはりリーダーだよ、君は。
うんうん、と心の中で頷いていると、部屋の片隅で黙々と作業していた男がむくりと立ち上がった。
「おい、お嬢。お前さん……これ、忘れてないか?」
大柄の男はエースと同じエレゼン族。エースの「王子様」な雰囲気とは違い、ワルイドな彼が、のしのしと自分に近づいてきて、一枚の絵画を差し出した。
それを見て、私の目が大きく見開かれる。
『オルシュファン……』
「ははん。その顔を見るに、忘れてたようだな」
自分の顔を見て、シロがニヤリと笑った。図星を刺されて目が泳ぐ。
「ん? なんだなんだ?」
さっきまでエースとの口喧嘩に勤しんでいたレッドがやってきた。つられて、ケイとエースもやっくる。
「ああ、これが噂の。主のご友人ですね」
ケイの言葉ににこりと笑って頷いた。
「へぇ。なかなかの面構えじゃないか。ま、俺様ほどじゃあないけどな」
フフンと鼻を鳴らしながらも、興味深げにレッドがのぞき込む。
「この方は、確か、フォルタン伯爵の……」
エースの言葉に、また小さくコクリと頷いた。
「『銀剣のオルシュファン』。フォルタン伯爵、唯一の間違いでできた私生児ってやつか」
シロの言葉に、そこにいる全員が『おいっ』というジト目を向けた。
それに気づいた彼は、やれやれと小さく肩を竦めて口を閉じる。
シロの言葉に間違いはない。確かに世間では、フォルタン伯爵の唯一の間違いと言われてるが、しかし、件のフォルタン伯にも、その腹違いの兄弟たちからも、慕われていた男だ。
---私は目を閉じた。
そうすれば、その瞼の裏に、次々に浮かび上がってくる。在りし日の彼の姿が。
初めて出会った時のことを、覚えているかい。
逃れて君を頼った時、届けてくれた暖かな飲み物に、心まで癒された。
君は本当に強い男だった。体も、心も。きっとあそこにいた誰よりも強かったのだろう。
「さぁ、お嬢様。彼にも、今後の旅路を見守ってもらいましょうか」
エースの言葉に、少しだけ涙ぐんでしまった目をこすったあと、うん、と頷く。
立ち上がり、彼の場所を探した。そして、入口近くの広い壁に定める。
「へえ。なかなかの色男だな」
シロの言葉に小さく笑った。
「さぁて、じゃあ片づけを再開しようか。夜になっちゃうからね」
間の抜けたようなケイの声に、また小さくこくりと頷いた。
そう。冒険はまだまだこれから。
だからそこで見ていてほしい。
---我が友、オルシュファン。
そしてまた、楽しそうに冒険話を聞いてくれ。
終
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そう。リテイナーの倉庫片づけをしていたら、ひょっこり出てきたオルシュファンの絵画。
「おったんかい!」
ってなったよね(笑)
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